炎の戦士クーフリン(ローズマリー・サトクリフ)

ケルト神話のクーフリンの話ですが、北欧と同様に、血みどろな神話ですね。
ほっそりとした黒髪の美少年ながら、太陽神の血を引く勇猛果敢な戦士というクーフリン。
その割に、ものすごいギャグ飛ばしていました。
口から泡をふきながら、脳天から血の霧を飛ばし、全身ブルブル震わせて炎を吹き出しながら戦車で走る・・・こわい。
しかしながら、親友や唯一の息子をその手で殺し、結婚の際にも、妻の家を全滅させてくるというクーフリンの生涯は常に悲劇であり、最初から短命な英雄と宣言された通りの人生なのだ
この直後に読んだ白鳥異伝(荻原規子)を読むと、クーフリン=ヤマトタケル
戦争好きは、それだけ早死にする確率も高いということですね。
唯一クーフリンがメインでは出てこない美少女ディアドラの話は、アーサー王伝説の「トリスタンとイゾルテ」とよく似ていて、ケルトブリテンの距離の近さを思います。

ケルト神話 炎の戦士クーフリン

ケルト神話 炎の戦士クーフリン

獣の奏者1 闘蛇編(上橋菜穂子)

闘蛇(人間がまたがって戦うほど、でかい蛇)も、王獣(スフィンクス?)も、ミツバチさえも、ヒロインのエリンの目を通して、生き物が愛おしく、力強く、魅力的に書かれている。

幼くして、母に命がけで助けられ、同時に母以外の親族に見捨てられるという経験をするエリンだが、次に出会った養蜂家で元・学者の初老の男(ジョウン)は親切な男で、彼によってエリンは養われる。

捨てる神あれば拾う神あり。

守り人シリーズと同様、神格化された王と複雑怪奇な制度が構築されているが、今回はエリンに直接かかわることがなかった。
次の巻では、どーんと、影響が出てくるのだろう。

悪魔の黙示録 デモナータ6(ダレン・シャン)

とうとう、起承転結の転に来たデモナータ
途中、「えええ、そこで終わるの」と思ったけど、そういうわけでもなかった。
ただし、前作の伏線がそこにきたのかー、とか、BECを再読させてくれ、とか思う内容。
最初から10巻の構成を考えて本にしてあるから、途中の中だるみ(3章)もちゃんと意味があったりする。
作者の年齢や趣味から考えても、RPGの世界観があるような気がする。
ドラゴンクエスト2とか4っぽくないか?
メインキャラクターそれぞれに過去があり、ひとつの目的のために集まってきて、そこからラスボスに向かって本当の戦いが始まるという構成が。
特に王子2人と王女1人の3人パーティのDQ2を思い出すわぁ(20年以上前か。。。)

前作の最後、グラブス少年が、仲間だと思っていた女性ジューニーからひどい裏切りを知る飛行機の中からスタートする。
(ジューニーの性格、なんだか、悲しいんだよなぁ、ロード・ロスと相思相愛なんだけど)
ビルEに兄貴風をふかし、魔力が使えるようになって自信をつけてきた前作とはうってかわって、グラブスはしくしくめそめそ怯え続ける。
グラブスはようやく、カーネル(2幕の主役)、ベック(4幕の主役)、ベラナバス(嫌われ者の強い魔術師)と出会い、彼らはロード・ロスの大きなたくらみ、カーガッシュカーネルの中にあることが知られている魔力の源)の秘密の一部を知ることになる。
冒頭から最後まで、魔将ロード・ロスが出ずっぱりの巻なので、いたるところで、悪魔たちがシューシュー言っているような感じ。
特にカーネルが痛そうでたまりません。
ところで、ロード・ロスより、べラナバスのほうが嫌なやつだと思っていましたが、今回はちょっとべラナバスに可愛げがありました。

次は、いったんグラブスが引っ込んで、健気すぎるベックが語り手のようです。笑いとか毒気が不足しそうでちょっと心配です。

デモナータ 6幕 悪魔の黙示録

デモナータ 6幕 悪魔の黙示録

裏切りの月に抱かれて(パトリシア・ブリッグズ)

同じ作者による「ドラゴンと愚者」と同様に、予想外に面白かった現代ロマンティックファンタジー
いわゆるハーレクイン物だが、きっちりとウォーカー(生まれつきコヨーテに変化できる)、人狼(噛まれると、そうなる)、ヴァンパイア、魔法使い(これは曖昧)、フェイなどの、人外の生物が定義され、作品世界が書き込まれている。
ただし、それだけ、説明文が多いのでくどい。
きっと続編のほうが面白いに違いない。
リーダー格のオスの人狼2匹(当然ながら筋肉ムキムキで強引だが、主人公だけには弱くてベタボレという・・・)が、主役の女性を巡って無闇に張り合う点だけが「ロマンティック」だが、それ以外は、通常の現代ホラーファンタジーとして面白いのだ。
ただし、イギリス訛り(舞台はアメリカだ)を関西弁で表現するのだけは、許せない。

ヴァンパイアものが続いているので、そろそろ、古典であるブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」を読む必要がある。

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

戦士志願(ロイス・マクマスター・ビジョルド)

母親の胎内にいたころに遭遇した事故のせいで、身体的ハンディキャップを背負っているマイルズ。
知力検査には絶対の自信があったが、体力検査の失敗で士官学校入試に落ちた失意の彼は、ボディガードとその娘を連れ、非合法に大宇宙へと飛び出した。
わらしべ長者のように、敵の宇宙船を倒しては、傭兵として吸収し、大きくなっていくという、スペースオペラ
しかし、マイルズは筋骨隆々の熱いスペースオペラのヒーローとは異なり、骨の成長障害を持つために運動能力には難がある。その代わりに17歳にしては老成しており、優秀なプロジェクトマネージャーというか、人心掌握に長けたリーダーだ。
同じ著者によるファンタジー「チャリオンの影」の主人公カザリルを思わせる、不幸・体の弱い・苦虫噛み過ぎな知性派ヒーローの活躍が更に読みたい。(あと3冊は読める)

戦士志願

戦士志願

彩雲国物語13 黎明に琥珀はきらめく

藍将軍の次は、吏部次郎の李コウユウ(漢字変換に疲れた)が政治的な罠にかかった。
秀麗は尊敬する師匠である彼を助けるため、奔走し、ライバル清雅と対決する。
だんだんとキャリアウーマン化していく秀麗の先行きが心配です。

トロール・フェル(キャサリン・ラングリッシュ)

母を昔に亡くし、今、父も亡くした少年が、葬儀の晩にいきなり、叔父に連れ去られる。
少年の手首を縄で縛って馬車にくくりつけるような、本気でヤバイ、一卵性双生児の2人の叔父。まさに、外見も中身も鬼。
さらに、極悪非道(お前の物はオレの物、を実践)な叔父たちが、トロールへの貢ぎ物として、少年自身を引き取ったことを知り、少年はショックを受ける。
どこまでも「悪」の叔父たちや、叔父が取引しようとしている悪賢いトロール(叔父より話が通じるだけ、トロールのほうがマシに感じる)たちと、健気な少年が対決する話。
様々な物語で、両親を失った少年たちが酷い目にあうが、ここまで救いのない主人公は初めてかもしれない。(一話でケリがついたけど)

トロール・フェル〈上〉金のゴブレットのゆくえ

トロール・フェル〈上〉金のゴブレットのゆくえ

トロール・フェル〈下〉地底王国への扉

トロール・フェル〈下〉地底王国への扉