魔法使いはだれだ

子どもの世界には、問答無用の上下関係や掟がある。
いいものを取ることになっている子と、貧乏くじを引くことになっている子だけは、とりあえず順位がつけられていたりした。
ファンタジーで児童書なんだけど、子どもの現実書かせたら、この作家さんは身も蓋もないような書き方をするな、と思う。
 
本作は、大魔法使いクレストマンシーのシリーズ。
魔法使いが罰せられる世界にあって、大魔法使いの子孫や、魔法使いの子ども、魔法使いを逃がす組織の人間の子ども、など訳ありの子どもばかりが集まった寄宿学校が舞台。
魔法とかよりも、子どもたちの間のやりとりが面白い。
クレストマンシーなんか、最後にちょびっと出てくるくらいの感じ。

クリストファーの魔法の旅

作者はファンタジー界の大御所で、大学では、指輪物語の作者トールキンや、ナルニア国物語の作者C.J.ルイスの講義を受けたという、王道の王道である。
そして、ハリー・ポッターが出るよりも、10年も前の作品。
しかし、共通点がたくさん。
親とは関係が薄くて、親戚ともうまくいってなくて、心の支えとなる師匠や、ちょっといい加減なところもあるけど主人公には頼りになる年上の友人、寄宿舎、団体スポーツ(クリケット)、小生意気な女友達・・・
こうしてみると、ハリー・ポッターは王道(どこかで読んだことある?)なのだなー。
クリストファーよりも、彼の友人のタクロイや女神、猫のスログデーモンのほうが、個性的で人間くさくて魅力的。
クリストファーは愚痴が多いし、巻き込まれ型でインパクトにかけるよ。
ある意味で主役型なんだけど。
読めばわかるが、「魔法使いはだれだ」のクレストマンシーが登場する巻である。
  
クリストファーは、夢の中で異世界に入り込って旅をする。
旅先で手に入れたものを持ち帰ったりすることもある。
両親の不仲によって、クリストファーに急接近してきた伯父ラルフは、クリストファーの不思議な力を悪用するが、クリストファーは旅自体を楽しんでいたし、旅先で生き神となってあがめられている孤独な少女「女神」とも知り合いとなる。
だが、クリストファーを心配した父親は、ラルフの魔手から守るため、クリストファーを大魔法使いクレストマンシーに合わせることにした。
クレストマンシーは、9つの命を持つ魔法使いの役職。
どうやらクリストファーも、その資格を持つらしいのだが。

魔女と暮せば

少年キャットは、姉のグウェンドリンが大好き。
親は事故でなくなり、姉は唯一の家族でもある。
グウェンドリンは、わがままで、魔法使いの才能に溢れ、野心家の、強烈な少女。
キャットはおとなしくて、個性がない、控えめな少年だ。
両親の死後、近所の魔女の家で暮していた二人だが、大魔法使いクレストマンシーの城に引き取られることになった。
しかし、グウェンドリンはクレストマンシーとソリが合わず、次々と魔法でひどいイタズラを仕掛けていく。
 
性悪なグウェンドリンの性格をどうにかしてくれー。
とにかく、こんなに性格の悪い姉、救いがたいんだけど、救われてしまう不思議。
少女の残酷さと傲慢さをぎゅっと凝縮したのがグウェンドリンだ。
あと、悪趣味なクレストマンシーの衣装をどうにかしてくれー。
 

トニーノの歌う魔法

由緒正しい魔法使いの一族が2つ存在するカプローナの町。
そのうちの1つに生まれたトニーノだが、兄のパウロとちがって、魔法の出きは今ひとつ。
でも、兄や姉が大好きで、楽しく暮していた。
ところが、なぜか、カプローナの町の魔法の力は弱まり、トニーノは敵に捕まってしまう。
  
ロミオとジュリエット、予言、隠された魔法の力、とロマンチックな小道具がいっぱい詰まっている。
しかし、とにかく、トニーノ、パウロ、アンジェリカなどの(ええとこの)少年少女が、穢れを知らない純真さで愛らしいのである。
両親と家族に素直に愛されて育った子どもたちが活躍するのは、シリーズではこの作品だけなのだ。
 

魔法がいっぱい

大魔法使いクレストマンシーの外伝。
他の4作を読んでからでないと面白くない。
キャットとトニーノが出てくる「キャットとトニーノと魂泥棒」は、性格が良かったキャットが悶々と悩み、自己嫌悪するのが可愛い。
「妖術使いの運命の車」は、シリーズでは、端役でしかなかった妖術使いが主役。
典型的な迷惑かけられ型のどたばたコメディで、一番面白かった。