七王国の玉座

七王国の玉座〈上〉―氷と炎の歌〈1〉 (氷と炎の歌 (1))

七王国の玉座〈上〉―氷と炎の歌〈1〉 (氷と炎の歌 (1))

七王国の玉座〈下〉―氷と炎の歌〈1〉 (氷と炎の歌 (1))

七王国の玉座〈下〉―氷と炎の歌〈1〉 (氷と炎の歌 (1))

主役が辛酸をなめ続けるファンタジーはロビン・ホブの「騎士の息子」シリーズが一番かと思ったら、複数の語り手全員が辛酸をなめるファンタジーがありました。
これです。
 
本作では、国王ロバートに頼まれて、宰相の地位につくため、エダードは北の領地から都へ向かう。
ところが、王妃の一族、ラニスター家の策略によって、ロバートは殺され、エダードは謀反の疑いをかけられ、子供たちは四散する。
一方、海の向こうでは、前王の遺児たちが、再び玉座を取り返すために、動いていた。
 

各章の語り手が、それぞれに辛酸をなめる。
北の領主スターク家一家からは領主エダード、妻ケイトリン、次男ブラン、長女サンサ、次女アリア、エダードの私生児ジョン(なぜか長男ロブ、末っ子は語り手にならない)。
エダードの親友の国王ロバートの妻の一族ラニスター家からは王妃の弟で、策士の小人ティリオン。
ロバートたちの手で追い払われた前王の一族の娘デーナリスは、海を隔てたところから参加。
それぞれ陰を背負って生きていくのである。
エダード、ロブは面白みがないのだが、他の人物は鬱屈していて、その分、苦労も多い。
ザ・お嬢様なサンサと、野生児アリアの姉妹は、決して相容れない。
同い年で跡取りのロブに対して引け目を感じるジョンは、結婚せず、過去を捨てることを誓う北壁の警護人になるために北に送られる。
愛する夫と子供たちに囲まれた美しく聡明な妻でありながら、ケイトリンは、ジョンにだけはあからさまな憎しみをぶつけてしまう。
ブランは愛らしい天使のような少年だったが、突然の不幸に見舞われる。
ティリオンは、太陽神のような兄姉と異なり、奇形であるため、誰からも省みられずひねくれ倒している。
デーナリスは、異なる大陸で、兄の策略によって、15歳ほども年上の族長に嫁ぐが、族長として敬愛される夫を見ているうちに、唯一の肉親・家長と思っていた兄が、情けないほどの小物であることに気づく。

話が進むにつれ、それぞれの語り手に思いがこもるが、無情なまでに運命に翻弄されていく様子がすごい。
最初からアリア、ジョン、ティリオンには気持ちが入るが、後半になってくるとサンサが面白い。
サンサのような、うわっつらだけの王子にほれ込み、貴族としての気位が高く、野生児の妹を馬鹿にしていて、いつも清潔なお嬢様、みたいなタイプ(グイン・サーガのシルヴィア皇女のイメージ)は、ファンタジーではヒロインのライバルか、ヒーローのさわられてしまう妻なのだが、不幸になってから、結構活躍する。
主役が一人ではないからこそ、語り手になっているキャラクターだ。