マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼、The Third Exhaust 排気


ゲームという小宇宙で、人生を暗示する手法は、魔法の国ザンス「ゴーレムの挑戦―摩法の国ザンス〈9〉 (ハヤカワ文庫FT)」にも、あった。
虜囚のジレンマ(囚人のジレンマ)で呼ばれるゲーム理論に基づいたゲームを、主役のゴーレムのグランディが展開していくうちに、一番負けない方法に気づき、それによって、人生の真理に気づくという話でした。
プレイヤーは4人、出せる手は「協力」「裏切り」の2つ。
このゲームを展開されていくうちに、ウガーーと、耐え切れなくなって、一度、放り出した記憶がある。
小さなゲームの繰り返しによる大きな戦略が、惑星全てのパワーバランスを左右するというSF小説もあった。( 目覚めよ、女王戦士の翼!〈上〉―スコーリア戦史 (ハヤカワ文庫SF)目覚めよ、女王戦士の翼!〈下〉―スコーリア戦史 (ハヤカワ文庫SF))。
これも小さな1ゲームそのものの勝ち負けではなく、ゲームを繰り返していくうちに生じる流れが政治を左右するというストーリーだった。
こっちも、ゲームの最中でウガーーとなった。
でも、全体としては、面白い本でした。
ゲームのやりとりそのものは退屈だけど、ストーリー全体としては面白いということですね。 
 
マルドゥック・スクランブルは、ゲームの種類自体が1種類に留まらない。
全3巻で、その中の1冊分のボリュームをカジノの中の各ゲームに充てている。
バロットは、宿命のライバル・ボイルドとの戦闘からではなく、ポーカー、ルーレット、ブラック・ジャックのゲーム(いかさま付き)から、集団心理、ディーラーとのやりとり、女性としての生き方、電子攪拌というバロットの新に身に着けた特殊能力、ウフコックとの付き合い方、勝負の駆け引きを学び取っていく。
 
ボイルドの思い出の中や、ウフコックが開発された技術が集まる空中要塞ハンプティ・ダンプティで知ることができるウフコックの成長が、これが、切なくて涙を誘う。
ウフコックとボイルドが求める自らの「有用性」と、バロットがつぶやく「それは愛してるってこと?」。
どちらも、存在意義、小説の永遠のテーマである。
ストーリーの中枢部分はストレート、道具立ては派手、と娯楽小説として、私が求めるポイントがちゃんとクリアされていて、とても面白かった。
  
シェルの処理方法については、あしらわれる?というほどに、あっさりしていたのが、ちょっと気になった。
それだけバロットが成長し、シェルは既に過去の人になってしまっているということで良いのだろう。